関係構築のスキル「傾聴力」
部下との関係構築、夫婦の関係構築、友人との関係構築。あらゆる関係構築において重要なスキルとして傾聴力があります。傾聴のスキルというと、カウンセリングの技法で有名です。私も産業カウンセラーとキャリアコンサルタントの資格を持っていますが、カウンセリングもキャリアコンサルティングも、傾聴という土台が欠かせません。産業カウンセリングにおいては、傾聴そのものがカウンセリング技法の中心にあるように思います。そんな傾聴のスキルにおいて、私が感じている大切なこと、私が思う傾聴力の磨き方です。

傾聴というスキル
傾聴は、相手の気持ちに寄り添い、あたかも自分のことのように相手の気持ちを深く理解して、話を受け止めると共に、相手の気持ちも受け止めていく技法です。相手を理解し、相手との関係を築くことが、傾聴の重要な役割となります。
カウンセリングにおける傾聴の技法
厚生労働省の働く人のメンタル・ポータルサイト「こころの耳」に、傾聴の技法についてまとめられています。
- 共感的理解 (empathy, empathic understanding)
相手の話を、相手の立場に立って、相手の気持ちに共感しながら理解しようとする。 - 無条件の肯定的関心 (unconditional positive regard)
相手の話を善悪の評価、好き嫌いの評価を入れずに聴く。相手の話を否定せず、なぜそのように考えるようになったのか、その背景に肯定的な関心を持って聴く。そのことによって、話し手は安心して話ができる。 - 自己一致 (congruence)
聴き手が相手に対しても、自分に対しても真摯な態度で、話が分かりにくい時は分かりにくいことを伝え、真意を確認する。分からないことをそのままにしておくことは、自己一致に反する。
「共感的理解」に基づく傾聴とは、聴き手が相手の話を聴くときに、相手の立場になって相手の気持ちに共感しながら聴くことです。「無条件の肯定的関心」を持った傾聴とは、相手の話の内容が、たとえ反社会的な内容であっても、初めから否定することなく、なぜそのようなことを考えるようになったのか関心を持って聴くことです。「自己一致」に基づく傾聴とは、聴く側も自分の気持ちを大切にし、もし相手の話の内容にわからないところがあれば、そのままにせず聴きなおして内容を確かめ、相手に対しても自分に対しても真摯な態度で聴くことです。
(引用: https://kokoro.mhlw.go.jp/listen/listen001/ )
傾聴は関係構築の土台
相手との信頼関係の構築の土台は傾聴にあると私は感じています。相手の話を傾聴しながら、相手の気持ちを受け止める、受容する、承認する、あたかも自分のことのように理解する。話し手は聴き手に対して、自分の気持ちを受け止めてもらえている、受容してもらえている、承認してもらえている、自分のことのように理解してくれている、というようなことを感じることで、安心して言いにくいことも話をすることができるようになるし、話しながら自分の本音や苦しい部分に目を向けて、自分と向き合えるようになる。
これこそが、関係構築の土台です。私の話を否定せずに聴いてくれる、自分のことのように聴いてくれる相手なのか。私の話の表面だけをなぞって、自分の意見を言ってくる相手なのか、聞き手の尺度や価値観で変換して話を理解する人なのか、頭の中に自分なりの答えがあって、その答えに誘導するようにアドバイスや意見を言ってくる相手なのか。そこには雲泥の差があります。
まさに、無条件の肯定的関心をもって、共感的に理解しようとしてくれているのか。それが上っ面や誘導などの目的を持って表面的にしていることではなく、心の底からそのように受け止めてくれる態度とその心が自己一致している状態なのか。
テクニック的な話の聴き方ではなく、傾聴する者の姿勢と技法の両輪が伴った傾聴こそ、相手との関係構築の土台になると思っています。
傾聴力を身につけるために
相手との関係構築の土台とも言える傾聴力。そんな傾聴のスキルを磨くために、私自身が取り組んできたこと、大切にしてきたことをお話しさせていただきます。
大切なのは技法よりもあり方
傾聴は、相手の立場に立って、相手の気持ちに共感しながら理解しようとする「共感的理解」。相手の話が、どんなに否定的、ネガティブ、他責的な話だとしても、それを評価せず、否定もせず、肯定的な関心を持って聴く「無条件の肯定的関心」。そして、相手に対してだけではなく、聴く自分に対しても真摯に向き合い聴く自己一致。
表面的な技法をどれだけ上手に使っても「傾聴」にならない。心の底から相手の気持ちに共感していないのに、あたかも共感しているような言葉や態度、相槌の技法を駆使することではない。そういうネガティブな考え方や姿勢じゃダメだろうな、なんて心の中で否定的に受け止めながら、肯定的に関心を示す言葉や表情を伝えても意味がない。こういうことでは、態度や言葉の技法と、話を聴くあなたの心は一致していない。
自分が経験していない他人の経験から生まれる感情を、自分のことのように共感するほど真摯に向き合い、話と共に気持ちを受け止めようとするあなたである必要がある。どんなに否定的、ネガティブ、他責的な話だとしても、無条件で肯定的に関心を持てなければならない。それが上っ面の技法でなく、心からそう思える必要がある。
それは、技法というより、聴く側の人間的姿勢が問われる。人としてのあり方だ。傾聴する者として、自らの人間的姿勢や、人としてのあり方を磨かずに、テクニックとしての技法を数多く覚えること、こなれた感じに上達させることだけを目指しても、傾聴力は磨かれないということです。大切なのは、聞き手の人間的姿勢、人としてのあり方です。
傾聴力の磨き方
では、具体的に、どうやって傾聴力を磨くのか。
傾聴力を磨く機会は、たくさんあります。人と会話する時、いつだって傾聴力を磨くトレーニングになります。部下と話をする時、夫婦で話をする時、恋人や友達と話をする時、セミナーで隣に座った人と話をする時。傾聴を実践してトレーニングする場をつくること自体は、ある程度、自分でコントロールして増やすことができます。
大切なことは、人と会話する際に、傾聴を意識すること。そして、会話の後に、自身の傾聴を振り返ることです。人と会話する際の傾聴の意識とその振り返りのポイントですが、大きく2つあります。
ひとつは、純粋な「技法」です。うなずき、相づち、繰り返し、などの受容的な態度、相手の会話の事柄や感情に対する応答、相手の話の要旨をまとめて伝え返す要約など、さまざまな傾聴の技法があり、それが適切にできていたかを振り返ること。
短調なうなずきやあいづちだけになっていなかったか。相手の会話の応答が事柄だけの応答ではなく、感情やその意味を捉えた応答ができていたか。もし、相手が「上司が理不尽に怒ってくるので、すごくイライラした」と話したのであれば、「上司が怒ってくる」ことが事柄で、「イライラした」ことが感情です。
事柄への応答としては「上司が怒ってくるのですね」という応答よりも「上司が”理不尽に”怒ってくるのですね」と応答した方がよい。「理不尽に」という部分には、話す側の感情が込められている可能性や、ただ怒るのではなく、理不尽に怒ってくる、ということに大事なポイントがある可能性が高いからです。
さらに感情への応答をするなら「イライラした気持ちになったのですね」という部分だが、これも「すごくイライラした気持ちになったのですね」という応答になる、ただ、イライラしたのではなく、すごくイライラした、というのが話し手の感情度合いを示している可能性が高い。
このように傾聴の技法を学んだら、それが的確に実践できていたかを振り返るということが大切になる。是非、一度、傾聴のロールプレイングと振り返りという学びの経験をして欲しいと思います。振り返りのポイントが見えてくると思います。
ふたつめは、傾聴する者の姿勢やあり方を振り返ることです。「共感的理解」「無条件の肯定的関心」「自己一致 」ができていたのか、ということです。
事柄や事象を理解することでもなく、悲しい気持ちだと言った相手が悲しい気持ちなんだなと状況を理解することでもなく、相手の悲しい気持ちの意味や度合いを、あたかも自分のことのように共感的に理解、受け止めることができたのか、そういう姿勢で共感的に話を受け止めることができたのか、ということです。
無条件の肯定的関心も同様です。「毎日、部下が言うことを聞かなくて、困ってるんですよ」と言った相手がいたとして、その前後の文脈を聞いていると、上司であるその人の言い方や部下への接し方、上司としての考え方にも課題があるように気づくこともあるものです。そんな時、あなた自身にも問題があるだろうな、と相手の話を聞いていたら、それは相手に対する無条件の肯定的関心ではない。話を聴く側の選択や評価が入って話を聴いていることになる。相手の考えや行動が容認できない内容でも、選択したり、評価したりすることなく、すべてを受けとめる。ということです。これは突き詰めると、相手を1人の大切な人間として、心から大切にし、尊重する人間感がなければ、このような接し方は難しいと思っています。傾聴する側のまさに人間力を問われる姿勢だと、私は思っています。
自己一致も同様です。上記のような共感的理解、無条件の肯定的関心の姿勢を保ちながら、傾聴ができていなければ、うわべだけの技法になり、見せかけの態度や技法になる。傾聴する側の言動や技法と、心に感じたことにズレがないことが自己一致なのです。
この傾聴する側の人としての姿勢、あり方ができていたかを振り返ることです。
傾聴の技法と傾聴する者としての姿勢・あり方の両方を、しっかりと意識しながら傾聴を実践すること、実践した後に振り返ることです。これを丁寧にやることで、真に傾聴力が磨かれると思います。
まとめ
傾聴の技法というよりも基本的な姿勢・態度として、「共感的理解」「無条件の肯定的関心」「自己一致」の3つがあります。この傾聴の姿勢・態度が備わった前提で、傾聴の技法を用いることで、傾聴によって、相手との信頼関係の構築に繋がります。これこそ、関係構築の土台です。
傾聴力を磨くためには、傾聴の技法よりもあり方、つまり傾聴する者としての姿勢・あり方を磨くことが欠かせません。傾聴する者として、相手に対する「共感的理解」「無条件の肯定的関心」「自己一致」の3つの基本的な姿勢や態度を持てるか、技法と心で感じることにズレがない状態で傾聴ができるかです。
そのために、人との会話をする機会では傾聴を意識し、会話を終えた後に自身の傾聴を振り返ることです。傾聴の技法がどれだけできていたかを振り返るのではなく、傾聴をする者の人間的な姿勢や態度が持てていたかを、きっちりと振り返り、技法を磨くと共に、傾聴する者としての自分を磨くことが大切だと、わたしは捉えています。








